気になるのは、産経新聞が「日本人のノーベル賞受賞者は28人目」と書いているように、複数のメディアが真鍋氏について「日本人」と書いていることです。先日は岸田総理も「人類に大きな貢献をされたということで、日本人として大変誇らしく思っている」と祝福の言葉を述べました。
しかし真鍋淑郎氏は米国籍のアメリカ人です。日本の法律では成人した日本人が外国の国籍を取得すると、本人の意思確認がされないまま日本国籍がはく奪されてしまいます。真鍋氏のようなケースでは「米国籍を持ちながら日本国籍も持ち続ける」ということは不可能なのです。
真鍋氏に限らず、海外に渡った日本人の研究者やビジネスパーソンが仕事上の理由から外国の国籍を取得したことで日本の国籍を失ってしまったケースは多くあります。
数十年前からスイスに住む野川等氏は現地で会社を経営していました。同氏の会社が入札に参加する際に「スイスでは社長にスイス国籍がないと、会社の入札が認められない」ことから同氏はスイスの国籍を取得しました。
しかし「スイス国籍の取得により日本の国籍がなくなる」ということを知らないままスイス国民になった野川氏は、数年後に日本のパスポートを更新しようとした際に「自分の日本国籍が喪失している」ことを知らされます。ショックを受けた野川氏は「スイス国籍を取得したからといって、日本人をやめた覚えはない」と国(日本)を相手に訴訟(国籍はく奪条項違憲訴訟)を起こしました。
残念ながら東京地裁(森英明裁判長)は今年1月に「外国籍を取得することで日本国籍を失う国籍法の規定は合憲」と判断し、野川氏とともに訴訟を起こしていた原告計8名の訴えを退けました。現在原告団は控訴中であり、控訴審の第2回期日は東京高等裁判所で11月30日の午後3時から行われます。
メディアもこの「国籍はく奪条項違憲訴訟」についてたびたび取り上げていますが、オンライン記事のコメント欄には「外国籍を取得しておきながら日本国籍も維持したいなんてズルい」「ワガママ」「調子が良すぎる」といったコメントが大量に見られました。
前述のように一審判決で国は「外国籍を取得した日本人は日本国籍を喪失するのは違憲ではない」と判断しました。簡単にいうと「国が日本人から日本国籍を取り上げてしまった」形であるわけです。そういった中で国の総理が「(ノーベル賞受賞について)日本人として大変誇らしく思っている」と語ったことに当事者からは疑問の声が上がっています。