竹嶋渉(元在韓ジャーナリスト)
 「他人がやれば不倫、自分がやればロマンス」。韓国で「自分に甘く、他人に厳しい」、つまり「身内びいき」や「ダブルスタンダード」を指して語られる言葉である。
 「ライダイハン」とは、「韓国系のベトナム人」を意味する言葉である。もともとはベトナム語で「Lai Đại Hàn(大韓)」と表記するが、韓国でも一般に広く用いられている。
 なぜ、韓国の隣国でもないベトナムに「韓国系ベトナム人」が存在するのだろうか。これは、韓国のベトナム戦争参戦が原因である。韓国は1964年からベトナムに派兵し、本格的にベトナム戦争に参戦した。ベトナムに赴いたのは韓国軍の軍人だけではない。軍人とともに数多くの労務者や韓国企業の労働者が特需を求めてベトナムに殺到した。大韓航空を傘下に収める「韓進」は軍需品の輸送で、「ヒュンダイ」の名で知られる「現代」は土木・建設分野で、今はなき「大宇」は繊維製品をはじめとする軍需品の生産で大きく飛躍した企業である。最盛期には、5万人の韓国軍がベトナムに駐留し、それに伴って韓国人労働者の数も2万人まで増加した。その過程で韓国人男性とベトナム人女性の間に数多くの「韓国系ベトナム人=ライダイハン」が誕生することになった。

南ベトナムの大統領官邸に突入した
北ベトナム軍戦車と兵士
=1975年4月(古森義久撮影)
南ベトナムの大統領官邸に突入した北ベトナム軍戦車と
兵士 =1975年4月(古森義久撮影)
 1973年のパリ平和協定に伴って韓国軍がベトナムから撤退し、75年の南ベトナム(ベトナム共和国)の崩壊とともに韓国企業や韓国人労働者もベトナムから撤収することになった。統一されたベトナムで「ライダイハン」は「敵軍との間に生まれた子ども」としてさまざまな圧迫や差別に直面することになった。ちなみに「ライダイハン(大韓)」の「」は「ハーフ」をあらわす接頭辞であるが、そこには多分に軽蔑の意味が込められている。
 現在、「ライダイハン」の正確な数は把握されていない。1500人から3万人までさまざまな数字が提示されているが、公式的な統計は現在も存在しない。その内幕については公にされていないが、強姦や売買春の他に、韓国人の「現地妻」が生んだ「ライダイハン」も相当数存在すると思われる。「ライダイハン」の居住地は韓国軍が駐屯していたホーチミン(サイゴン)、クィニョンなどであり、首都・ハノイにはほとんど居住していないという。