銃による凶悪犯罪のニュースが毎週のように流れてくるものの、アメリカの銃規制は一向に進まない。銃規制に真っ向から反対するNRA (全米ライフル協会)は、日本から見れば、まるで「悪の結社」のようにすら見える。そもそもNRAとは何なのか、考えてみたい。
「殺すのは銃でなくて人だ」がお決まり
NRAとは簡単に言えば、銃を持つ権利を擁護するための社会運動を行うための利益団体(interest group)。設立は南北戦争直後の1871年と古い。
利益団体とは特定の目的を実現するために活動する団体で、政府に強い圧力をかけ、政策を捻じ曲げてしまうような団体を想像するだろう。
衝撃的な銃犯罪のたびに、規制強化を避けるためNRAの幹部がメディアに登場し、一般人による銃の所持を規制しないように働きかける。「殺すのは銃でなくて人だ」というのはNRAのいつもの決め台詞だ。
NRAのラピエールCEOは「銃乱射事件から子どもたちを守るため、全ての学校に武装した警官を配置すべき」と説く。ラピエール氏はトランプ政権が発足後、トランプ大統領に何度か面会し、進みそうだった銃規制が骨抜きになったという経緯がある。
NRAの活動がなければアメリカの銃事情は大きく違っていたかもしれないことを考えると、NRAは議会やホワイトハウスに圧力をかける「悪の結社」というイメージそのものかもしれない。
「非営利団体(NPO)」としてのNRA
NRAは税法上、非営利団体(NPO)であり、基本的には個人や各種団体、企業からの献金によって運営されている。シエラクラブ、グリーンピース、環境防衛基金などの環境保護団体や、NOW(全米女性組織)などの女性運動の団体、アフリカ系の支援団体NAACP(全米黒人地位向上協会)や、消費者保護団体である「パブリック・シティズン」などの消費者団体と同じだ。世論を代弁して、その世論に支持されることで活動を大きくし、社会や政府に影響を与えていくのが利益団体である。
アメリカでは伝統的に利益団体の活動が積極的であることで知られている。これにはいくつかの理由がある。
まずアメリカが民主主義であるということ。政治は一人ではできず、政府や社会に訴えるには仲間が必要だ。民主主義的な政治参加の手段が利益団体への参加である。そのため利益団体に対する税制的な優遇措置がかなり徹底されている。こうした団体への寄付は税控除の対象となるため、一般国民や企業、財団からの寄付がアメリカの利益団体を大きくしてきたとい ってもいい。
寄付の返礼品にピストルやライフル
税金の一部を政府に収める代わりに、自分が会員である団体に寄付することがアメリカでは珍しくない。地方税を他の自治体に寄付する日本の「ふるさと納税」のような制度だと思うとわかりやすいかもしれない。
「返礼品」の代わりに自分が望む政策を応援することになる。
加えて、団体から「返礼品」を提供する団体もある。NRAがまさにそうだ。
NRAの場合、同じく非営利団体でも一般から広く寄付を集めるための「Friends of NRA」という団体を作っている。この団体の場合、団体の雑誌やナイフに加え、日本の感覚では驚いてしまうが、寄付額に応じて本物のライフルやピストルの「返礼品」が贈られる。
例えば750ドルを寄付すれば、市価で200ドル前後とみられるピストルが贈られる仕組みだ (ピストルが比較的低価格で売買されている事実にも驚く )。
Friends of NRAは税法上広く献金を集めることができる代わりに、党派的な活動や政治運動はできない。逆にNRA本体は政治運動は可能だが、献金を受けることにはさまざまな制限がある。別団体を作ってそこで資金を集め、この団体からNRAに寄付させるという仕組みだ。
2つのタイプの団体を使い分けて政治活動することは、アメリカの利益団体では常套手段である(最近では一部のシンクタンクも2つの団体を使い分けて、政治活動を行なっている)。
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・転記元「 BUSINESS INSIDER 」(ここ をクリック )