実質的に日本のコンテナ船“MOL COMFORT”が沈没した事故はあまり知られていません。2015年3月3日に国交省の最終報告書が出ましたが、やはりマスメディアは取り上げていないようです。
それで繰り返しになりますが、事故の概要を簡単に書きます。
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三菱重工が建造し、商船三井が運用していたコンテナ船“MOL COMFORT”が、2013年6月17日にインド洋で船体が中央部から二つに折れ、船体前半分は10日間漂流後に沈没、船体後半分は漂流中に引航を試みるも火災を起こし、7月11日に沈没しました。積荷の4382個のコンテナは全部失われましたが、乗組員(全員外国人)は全員救助されています。沈没した海域の水深は3~4000mあり、船体の引き上げは困難です。なおこのコンテナ船は、就航して数年の新しい船で、商船三井には同型船が6隻あります。
船体が折れる寸前の様子、二つに割れた船体が漂流する様子などの衝撃的な写真がインターネット上に出ています。これらは、“MOL COMFORT”で検索すると出てきますが、一つだけ挙げておきます。詳しくは過去のブログを参照ください。
(2016.01.12現在、上記の記事・写真は削除されています。2013年7月15日のブログ「インド洋で商船三井の“MOL COMFORT”が嵐で真っ二つ」の後半で数件のサイトを紹介しているのでそちらを参照してください)
その後の対応として
①商船三井は、“MOL COMFORT”と同型の船6隻の船体を補強し改修した。
②国土交通省は「コンテナ運搬船安全対策検討委員会」をつくり、2013年12月に中間報告を出した。その内容は
・亀裂は中央部船底外板から発生と推測
・沈没した船と同型の複数の船の中央部船底外板に、20mm程度の「座屈変形」を確認
・「座屈」に至るかシミュレーションしたが、再現できていない
- 中間報告の全文:
https://www.mlit.go.jp/common/001022351.pdf
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ここから国土交通省の最終報告書と日本船級協会の報告書についてです。
- 国土交通省の最終報告書
http://www.mlit.go.jp/common/001081291.pdf
- 船舶の検査を行う日本船級協会の報告書
これらの報告書の内容を簡単にまとめると、
(1)船体破断の原因は、船底外板の「座屈変形」から座屈崩壊に至ったと推定する
(2)“MOL COMFORT”の同型船以外のコンテナ船を数隻チェックしたが、船底に座屈崩壊の原因となる「座屈変形」は無かった
(3)船体破断の原因は船体の強度不足(他のコンテナ船より船体強度の余裕が少ない)
“MOL COMFORT”の船体の強度不足は予測された話なので、報告書では船体にどういう力が働いた時に船体強度を越える力が働くか、いろいろな力の働く可能性をシミュレーションで検討しています。その結果、従来のシミュレーションでは差が出ないが、外力のかかり方にある要因を考慮したシミュレーションでは差が出ると言っています。しかし “MOL COMFORT”の船体強度が、いかなる理由で余裕が少ない設計になったのかは示されていません。つまり
1)“MOL COMFORT”は他船の船体強度と同じつもりで設計したが、結果的に他船より船体強度の余裕が小さくなった。それはどのような設計が原因なのか?
2)初めから、船舶検査には合格するが、船体強度の余裕をギリギリに少なくする設計にした
1)と2)では対策がかなり違うと思うのですが、どちらかは書いてありません。船体強度のシミュレーションで差が出たと言っているので、船体の構造が他船とどこが違うのか、検討委員会の担当者はわかっているはずです。
とはいうものの、商船三井は同型船6隻をさっさと補強し改修をしたわけですし、他のコンテナ船に船底外板の「座屈変形」は無いので、2)のギリギリ設計のように思えます。
ところで今年3月2日に、商船三井は世界最大のコンテナ船を新造すると言うニュースがありました。発注先はサムスン重工に4隻、今治造船に2隻だったので、三菱重工は避けたのかな?というのがニュースを聞いた時の感想です。
これも私の感想ですが、三菱重工は先端的な分野、ロケット・旅客機パーツ製造・旅客機開発・原発・風力など多くを手掛け過ぎて、隅々まで手が回らなくなっているような気がします。
(注)「座屈変形」について
前回のブログでも紹介しましたが、下記のサイトに「座屈変形」の良くわかる解説があります。ぜひご覧ください。
http://www.shims.shinshu-u.ac.jp/lab/kozo/buckling.htm
(中略)
事故時の状況を詳細に解析したところ、従来の安全基準では十分に考慮されていなかった「波の衝撃で生じる船体振動による力」のため船体に加わる力が増大し、また、「横方向から船体に加わる力の影響」により船体強度が低下しました。その結果、船体に加わる力が船体強度を上回り、折損に至ったと推定しました。