おばあさん役で親しまれた女優北林谷栄(きたばやし・たにえ)さん(本名・安藤令子=あんどう・れいこ)が4月27日午後8時40分、肺炎のため東京都世田谷区の関東中央病院で亡くなっていたことが6日、分かった。98歳。葬儀は近親者のみで行い、喪主は長男河原朝生(かわはら・あさお)氏。北林さんは劇団民芸の創立メンバーで、20代から老け役を演じた「日本一のおばあちゃん役者」だった。後日、お別れの会を行う。

 北林さんは03年を最後に公の場から姿を消していた。同年、63年の初演以来約450回演じた老婦人の神部ハナ役で参加した劇団民芸公演「泰山木の木の下で」、自らの半生を描いた一人芝居「蓮以子93になった」に主演後、一線から身を引いた。

 高齢者専用の民間施設に移り住み、静かな余生を送っていたが、4月中旬に体調が悪化して入院。家族にみとられて眠るように息を引き取ったという。

 東京・銀座の洋酒問屋に生まれ、母親は北林さんを産んだ直後に亡くなったため祖母に育てられた。肺結核で療養後、20歳で新劇の世界に入り、50年に宇野重吉、滝沢修と劇団民芸創立に参加。20代後半で演じた舞台「とんど祭り」のおばあちゃん役が好評だったことをきっかけに老け役に取り組んだ。

 おばあちゃんに見えるようにメークや衣装の研究を怠らず、映画「破戒」「ビルマの竪琴」「キクとイサム」「にあんちゃん」「地の群れ」「キューポラのある街」で真に迫るおばあちゃん役をみせ、数々の映画賞に輝いた。市川崑監督「ビルマの竪琴」では56年とリメークした85年に同じ物売りのおばあちゃんを演じて話題を呼んだ。

 89年に動脈瘤(りゅう)破裂で前頭部手術を受けたが、翌90年に映画「大誘拐」の富豪の老婦人役で主演復帰。日本アカデミー賞などの女優賞を独占した。多才な人で、75年に舞台「お尋ね者ホッツェンプロッツ」で作・演出に挑戦したほか、80年に69歳で半年間ロンドン留学し演劇を勉強。97年の舞台「黄落」の脚色で紀伊国屋演劇賞を受賞した。

 02年にはかつての盟友宇野の息子寺尾聡と共演した映画「阿弥陀堂だより」で日本アカデミー最優秀助演女優賞を90歳で受賞し、テレビも「前略おふくろ様」など多くの芸術祭参加作品に出演。80年のドラマ「機の音」で118歳の役を演じ、アニメ「となりのトトロ」の声でもおばあちゃん役だった。映画出演は03年公開「黄泉がえり」が最後となった。

 私生活では45年に画家の河原冬蔵さんと結婚。1人息子を産んだが、孫はいなかった。芸能界では102歳の長岡輝子に次ぐ長寿女優だった。

 [2010年5月7日7時59分

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