「韓国に生まれなくてよかった」元駐韓大使が今でも心底そう思う理由

国会で演説する韓国の文在寅大統領 Photo:YONHAP NEWS/AFLO
文在寅氏が韓国の大統領に当選した日、筆者の手元には既に校了し、発売直前となった著書の原稿があった。ほぼ全ての制作工程を終え、あとは印刷するだけだったのだが、編集者と相談の上、タイトルを「韓国人に生まれなくてよかった」とつけ変えた。 【この記事の画像を見る】 筆者は以前、ダイヤモンド・オンラインに「韓国は努力しても報われない社会で大変だ」という趣旨で寄稿したことがあったが、朝鮮日報などで取り上げられると多くの読者から、そのタイトルは別として内容については納得した、という反響が多く寄せられた。 しかし同時に、タイトルの『「韓国人に生まれなくて良かった」元駐韓大使が心底思う理由』については多くの意見があった。元大使が駐在した国のことを書いた本に、このような批判的なタイトルを付けるのは誠に不謹慎であるという、お叱りの言葉が多かった。確かに、この批判は当たっている。だが、私がこの本で言いたかったことは、決して韓国を誹謗中傷することではない。文在寅氏が大統領になったことで、政治の混乱は避けられず、韓国の人々を不幸にするだろうということだった。 残念ながら、筆者の当時の予感は的中してしまった。文在寅大統領の韓国は、北朝鮮に追従するばかりで韓国の安全保障をないがしろにしている。文政権の高官は、現在の韓国は平和だと主張しているが、実際は北朝鮮の動き次第で、いつでも崩壊する危うい平和である。 文大統領は、内政では国内融和を図るよりも対立をあおり、左派政権を永続化させ、保守派を徹底的に締め出そうとしている。 こうした文在寅政権の体質(著書「文在寅の謀略――すべて見抜いた」参照)についてはこれまで何度か寄稿している。そこで今回は、日常生活における韓国国民の不幸という側面に絞って、今の韓国社会を深掘りしてみたい。
● 見せかけだけの「雇用大統領」 文大統領は16日、国会の開院式に出席し、演説を行った。文大統領は「経済でも韓国は他国より相対的に善戦した。世界経済のマイナス成長の中、OECDのうち韓国の経済成長率が最も良好」「政府の果敢で前例のない措置が中小企業保護と雇用維持に寄与し」「輸出・消費・雇用などで経済回復の流れが見え始めた」と希望に満ちた展望を語った。 しかし、15日に統計庁が発表した「雇用動向」では、演説内容とは全く違う実態が浮き彫りになった。 青年失業率は10.7%と1999年の統計作成以降、最悪となっている。新型コロナウイルスの影響を最も受けたのが青年層であり、青年層の失業問題の深刻さから、求職活動をあきらめる人が続出するほどになっている。洪楠基(ホン・ナムギ)副首相は、文大統領の楽観論とは異なり、良質の職場が多い製造業の雇用が減少していることに懸念を示している。 ただ韓国の雇用状況の悪化は、青年層だけにとどまらなくなっている。韓国経済の中軸を支える40代の雇用率が最低水準にまで落ち込んでいるのだ。6月の40代の雇用率は76.9%で、政権発足時の2017年の79.8%から毎年下落している。男女別では40代の男性の雇用率は89.7%と21年ぶりに90%を割り込んだ。特に40代の高卒者が、就業者数減の大半を占めた。40代の雇用不振の原因は製造業の低迷と関連している。 文大統領は韓国経済の就業状況は良好であると発言している。財政支出で、高齢者向け短期アルバイトを増やすことで、見せかけ上の失業率は低く抑えられているからである。しかし、問題視すべきことは、家計を支える中堅層、未来を担う青年層の良質な雇用が次々に奪われていることだ。このままでは、韓国国民の家計は、ますます火の車になっていくということである。 そもそも良質な製造業の雇用が減少したのは、反企業的な韓国政府の政策が原因だ。その代表例が、最低賃金の無計画な大幅引き上げである。 30年間ソウルで勤務したあるグローバル金融機関のCEOは、「国際資本が韓国経済に興味を失っている」と話す。韓国経済の根本的問題は主要産業の国際競争力の低下であり、韓国経済が財政支出に頼り切り、身を切る構造改革に背を向ける限り、未来はない。韓国政府は韓国版ニューディール政策を打ち出してはいるが、規制改革と労働組合寄りの労働政策の転換なくして、成功は難しいだろう。これでは、新型コロナ後も良質の雇用の創出は遅れるばかりだろう。 良質な雇用が失われていく社会を、想像したことがあるだろうか。それは就職や恋愛、結婚、出産、マイホーム、夢、人間関係という、人間として生きていくために重要な「希望」を失った世代、いわゆる「7放世代」(著書「韓国人に生まれなくてよかった」参照)と呼ばれる若者が、ますます増えていくことを意味する。 そして、40代からの名誉退職とも呼ばれる失業や生活にあえぐ老後といった韓国の厳しい状況は、文政権になってからますます多くの人々に迫ってきている。