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  • 2024.05
高圧を利用したジャムの製造 (転記記事)

---転記始め---

高圧を利用したジャムの製造

木村邦夫
(明治屋食品工場)

Key word:high pressure processed jam

今日の食品工業分野での加工・殺菌の主たる方法は
加熱処理であり,昔から経験的に利用され,その技術
的基礎は確立されている.しかし,加熱に伴う化学的
な変化は調理,加工上好ましいことのある反面,褐変
や加熱臭の生成あるいは栄養素の破壊など食品の品質
低下をもたらすことも少なくない.このような加熱処
理法による難点を解決する方法として,1987年京都
大学農学部の林教授が食品の加工,貯蔵,殺菌に圧力
を利用することを提唱(1,2)して以来,食品加工の見地
から加圧法が広く注目され,研究されるに至った.
明治屋では1911年(明治44年)以来ジャムの製造
販売を行っており,このことが果実加工食品への加圧
加工法の利用,研究の下地となったことはいうまでも
ない.長年,従来の伝統的なジャムを作ってきた筆者
らにとって,加圧だけで熱を使わないジャムをつくる
ことに半信半疑で臨んだわけである.
当初,筆者らは高圧のテスト機もなく,新しい果実
加圧加工食品の研究のため三菱重工業広島製作所の加
圧装置(MFP 7000)を用いてテストを繰り返すうち
に,これまでにない新鮮な風味のジャムができる可能
性を見いだした.そしてテスト加圧装置(MFP 7000)
の明治屋への導入に踏み切り,その後さらに研究が進
展したしだいである,
1994年4月にこのテスト機を用いて小型(50g入
り)プラスチック容器入りジャムを製造し,テストセ
ールを開始した.もちろん,このときに使った加圧機
は当社が導入したテスト用加圧装置で,一日フル生産
しても300~400個程度しか作ることができなかっ
た.そのような状況の中で何日も徹夜で運転をし,テ
ストセールの発売に間に合わせた記憶はなまなまし
い.この期間中ジャムに対する加圧効果の検討はもと

より,生産に関するノウハウの蓄積あるいは実用化装
置の検討を行い,1990年12月には加圧装置の実用機
(FP30V)の完成を晃るとともに,世界最初の加圧加工
食品として,無加熱のジャム(イチゴ,リンゴ,キウ
イ)の商品化に成功した(3).今日では,発売以来すでに
9年が経過している.その間,明治屋の全国の直営ス
トアーを中心に“High Pressure's dam” として販売し
ており,この商品を食べられた方からはこのジャムの
優れた味を評価していただいている.
以下,加圧法による新しいジャム製造法の開発,加
圧ジャムの特徴および問題点などを報告する.
1.加圧ジャムの製法の概要
筆者らが開発した加圧法によるジャム製造プロセス
を,従来の加熱法と比較して図に示す"ジャムの歴史
は極めて古く,人類が初めて砂糖を手にした紀元前に
さかのぼるとされている(4).現在でも家庭での手作り
が行われている一方,市場では工業的規模で製造され
た各種ジャムが流通している.
果実に砂糖を加え煮込んで味を整えるとともに,果
実加工000として保存性を高めるために殺菌を行う,こ
れがジャム調理のプロセスの原理である.具体的に
は,伝統的な加熱法では,果実,砂糖,ペクチンなど

【Fig. Comparison of new pressurizing method with
conventional method of jam preparation .】

を加熱しながら混合し,常圧下(100~105℃)または
減圧下(70~90℃)で加熱濃縮後,びんまたは缶など
の容器に充填,密封後,さらに熱湯(93℃ 前後,15~
20分間)による殺菌および冷却工程を経て製品とな
る.加熱は調理,保存性付与の両面から確立された優
れた加工方法であるが,加熱の結果,果異本来の色調
の褐変や微妙な香りの消失,味の変化,ビタミンCの
損失などは避けられない.
一方
,筆者らが開発した加圧製法では,果実,砂糖,
ペクチンなどの混合物を常温下でプラスチックなどの
外部加圧可能な容器に充填,密封した後,常温にて
400~50OMPaの加圧下で10~30分間の加圧処理を
行って製品とする.
2.加圧ジャムの包装容器
筆者らのプロセスでは,加圧処理容器として当初プ
ラスチック製のカップおよび蓋を用いた.この容器は
1)圧力で変形する,2)ヘッドスペースが少ない,3)圧
力変形後の復元性がある,4)熱シールができる,5)酸
素透過性が低いなどの基準で選択したものであり,材
質はポリプロピレン/エバール/ポリプロピレンの3
層からなるフィルムで構成されている.このプラスチ
ック製容器は,ガラス容器と比較してわずかに酸素透
過性があり,幾分透明性に欠けるという欠点があり,
現在では,筆者らとガラスメーカーが共同開発したガ
ラス瓶とアルミ箔の蓋の組み合わせによる高圧処理可
能な容器を用いている.この容器は透明感があり,酸
素透過性がなく,また商品としての高級感も兼ね備え
た容器である.
3.食品用加圧装置の実用化
テストセールしたハイプレッシャージャム3種類
は50グラム入りの小型プラスチック製容器詰めであ
ったが,このときに使用した加圧装置は三菱重工業
(株)製の超高圧試験装置MFP-7000(ピストン加圧
式)である.ついでジャム容器の大型化に伴い,同社
の試験装置MCT-100,さらにMCT-150など試験装
置を順次大型化して実用化のための検討を推し進め
た.このテスト生産の間に高い圧力の維持および制御
システムなど細部にわたるノウハウを取得,蓄積し
た.これらの実績に基づいて世界初の実用生産装置
(FP30V)の設計,製作がなされ,1990年12月にはハ
イプレッシャージャムの本格生産を開始した.この装
置はポンプ加圧方式を採用しており,加圧処理容積は

40L,加圧常用圧力は4000気圧である.
4.加圧ジャムの特徴(5)
加圧法では,すべての工程が無加熱で行われるた
め,加熱法で見られるような内容物の熱変性や熱分解
は起こらず,果実本来の新鮮な香味,色調が保たれ,
原料に含まれるビタミンCは95%が残留していた.
官能試験では加熱ジャムより加圧ジャムの方がより
優れた香味を有するとの評価を得た. 製品品質の上で
の加熱法と加圧法との違いは顕著である.加圧ジャム
の微生物学的安全性(商業的無菌性)はブドウ球菌,
サルモネラ,大腸菌群,および酵母を植菌した加圧ジ
ャム試料で殺菌が達成されていることを確認した.加
圧ジャムは,保存中の色調および香味の劣化を避ける
ため,流通および保存中はチルド条件に保っ必要があ
る,加圧加工法では,原料果実の色調および香味が製
品にそのまま反映するので,加圧加工に適した農産物
の品種育成,栽培管理,流通が望ましい.
5.加圧ジャムの保存中の変化(6)
製造直後の加圧ジャムは原料果実の香味,色調,お
よびビタミンCがほとんど分解されることなく残存
し,低温下の保存では,2~3カ月間優れた食質が保持
された.しかしながら,室温下の保存で急速な劣化が
見られることから保存中の劣化について検討した.
(i)加圧イチゴジャム中の香気成分の変化
加圧ジャムと加熱ジャムの香気成分をガスクロマト
グラフィー分析したところ,加熱ジャムではいくっか
の香気成分が消失している反面,加熱により新たに生
じたと考えられるピークが検出された.
イチゴの香りを特徴づける香気成分としてtrans-2-
hexenol, linalool, ethylbutyrate,2-methylbutyric
acidの4成分について,保存中における消長を調べ
た.冷蔵(5℃)保存では,加圧ジャムの香気成分は3
カ月経過後もほとんど変化することなく保持されてい
たが,室温(25℃)での保存では香気成分の劣化が進
行していた.特に残存するエステラーゼ作用に起因す
ると考えられるethyl butyrateの急速な分解が見ら
れた.
(ii)加圧イチゴジャムの色調変化
加熱イチゴジャムが製造段階で多少の褐変を生じた
のに対し,加圧イチゴジャムでは製造工程での褐変は
見られなかった.しかしながら加圧イチゴジャムを室
温下に保存すると,アントシアニンの分解に伴う赤色

の褪色と褐変化反応が顕著に進行し,色調が急速に劣
化した.アントシアニンの分解にはアスコルビン酸と
溶存酸素の作用が関係していると考えられる. また,
褐変化酵素は加圧処理では失活しにくいことから,加
圧ジャムの褐変は,酵素的反応と非酵素的反応の同時
進行によって生じていると考えられる.一方,室温保
存中における加熱ジャムの色調変化は緩慢であった.
(iii)ショ糖およびビタミンC含量の変化
室温保存において加圧イチゴジャムのショ糖の分解
が顕著であった.これも残存する酵素の作用によるも
のと考えられる.ショ糖の分解により生成した還元糖
は,非酵素的褐変化反応を促進する要因の一つになっ
ていると考えられる.
室温保存中におけるビタミンC含量の減少速度は,
加熱ジャムより加圧ジャムの方が大きい.しかしなが
ら,製造直後の加圧ジャムのビタミンC含量が高いレ
ベルにあるために,冷蔵・3カ月間保存後黄加圧ジャ
ムは,加熱ジャムに比較してなお高いレベルのビタミ
ンCを残留している.両ジャムにおけるビタミンC
含量の減少速度の差は,溶存酸素の多少によって生じ
ていると考える.
今後加圧ジャムのシェルフライフのさらなる延長を
可能にするために,劣化のメカニズムをより詳細に検
討する必要がある.
6.加圧機のトラブル
われわれは1年間に3~4千回加圧を繰り返し製造
を行っている.購入する際の繰り返し加圧の耐加圧回
数は7~10万回は大丈夫とされており,15年から20
年はトラブルの発生はないものと推測していた.しか
し,5年目に予期せぬトラブルに見舞われることとな
った.
(i)加圧機底蓋の亀裂
われわれの加圧機は外部昇圧式であり,特殊ステン
レス鋼製の底蓋に貫通した5mmほどの2本の穴か
ら加圧体である水を供給することにより昇圧する方
式である.平成8年4月16日に加圧昇圧中突然圧力
が低下した.メーカーで調査したところ,ドリルを用
いてくり貫いたステンレス鋼の穴が深くて穴の表面を
滑らかにすることができず,傷跡に水圧のストレスが
集中して亀裂に発展したとのことであった.
(ii)加圧機内筒の亀裂
加圧機底蓋の取り替え修理直後の平成8年4月27
日,高圧容器胴体部にトラブルが発生した.当該加圧
機の胴体部は鉄でできた外筒と特殊ステンレス鋼の内
筒からなり,焼き入れ加熱をした外筒に内筒をはめ込
んで耐圧性を高くするという加工が施されている.内
筒には外筒をはめ込むときのフック用のネジ穴があ
り,ここが金属の不連続部となって圧力の昇降により
応力がネジ穴に集中し,金属疲労となったようであ
る.このように全く予想外のトラブルが経験となり,
交換修理した部分には新しい工夫が施されている.か
ようなトラブルは経験して初めてわかることであり,
新しい加圧機へのノウハウの蓄積につながることだろ
う.
おわりに
加圧法の食品への応用は,筆者らが開発した加圧ジ
ャムで初めてスタートし,その後多くの人々に実際に
味わっていただき,その良さを知っていただいたと思
う.しかし,発売以来9無間を経過しているが加圧法
が一般に普及したとはいいがたい.加圧法が今後ます
ます発展するためには,低酸性食品におけるボツリヌ
ス菌などの有芽胞菌の殺菌,各種酵素の不活性化,お
よび加圧装置の低価格化などの問題を解決する必要が
あり,この方面の研究のいっそうの進展が望まれる.
また,現在の食品衛生法には,加熱殺菌を義務づけて
いる食品が数多くあり,この法律の規定も加圧法の導
入促進のネックとなっている.平成8年5月の法改正
で,食品衛生法に新たに規定された「総合衛生管理製
造過程による食品の製造の承認制度」を利用すること
によりこの法規制の問題は解決され,既存の製造方法
の基準に適合しなくとも加圧法による製造が可能とな
るだろう.


---転記終わり---
   ・転記元は「高圧を利用したジャムの製造」(ここ をクリック emoji

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