トロン―国産OSが世界標準になる
情報通信の世界では、あらゆるモノをインターネットにつなげようという「IoT」の技術が、製品開発や産業応用の中心となりつつある。そのIoT分野で6割以上の市場占有率を誇るのが、日本で生まれたコンピューター用基本ソフトウェア(OS=オペレーティングシステム)「トロン」だ。このトロンが、米国電気電子学会の標準規格として認定される手続きが進んでいる。順調に進めば、国産のOSが、「世界標準」になる。 なる。
IoT時代がやってきた
IoTという言葉を最近よく目にしたり、聞いたりするという人は多いだろう。インターネット・オブ・シングスの略で、「モノのインターネット」と訳されることが多い。生活空間のあらゆるモノ、あらゆる場所に小さなコンピューターやセンサーを組み込み、ネットワークにつないで便利な情報化社会を目指そうという技術である。ひと昔前まで「ユビキタス・コンピューティング(ユビキタスはラテン語であまねく存在するという意味)」と言っていた技術と同じだ。
1980年代は「どこでもコンピューター」と呼ばれていた。その基本となるアイデアを提唱したのが、坂村健博士(東洋大学情報連携学部長、東京大学名誉教授)だ。坂村博士は、昨年3月に東京大学教授として最後に行った講義で「私が30年以上研究開発してきたIoT=どこでもコンピューター=が、ようやくビジネスになる時代が来た。私は時代を先取りしすぎていた」と、しみじみ述懐していた。
トロン計画の始まり
国産OSトロンの生みの親がこの坂村博士で、トロンはIoTとともに育ってきたと言っていい。
トロンは「ザ・リアルタイム・オペレーティングシステム・ニュークリアス」の略で「機器をリアルタイム(実時間)で作動させるOSの中核部分」という意味である。坂村博士は東大助手だった1984年、「トロン計画」を提案した。
坂村博士は、いずれIoT社会(当時そういう名称はなかった)が到来し、あらゆる家電製品や自動車などにコンピューターが組み込まれ、ネットワークでつながるようになると予想した。そこで、機器に組み込まれるコンピューターを制御する「組み込み用OS」として広く使えるようにと、トロンの開発を始めたのである。
当時は、基板に中央演算処理装置(CPU)やメモリーなど最小限の部品を載せた簡素なコンピューターである「マイコン」が一部の機器に組み込まれ始めたばかりで、今から振り返ると、博士にはかなり先見の明があったと言える。
計画には東大のほかに日本電気、日立製作所、富士通、松下電器産業(現パナソニック)、三菱電機など国内大手電機メーカーも参画し、当時としては珍しい産学協同プロジェクトの形で進んでいった。
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